ポートフォリオマネジメントのご利益(ごりやく)

  

ポートフォリオマネジメントのご利益(ごりやく)

 

 みなさんは、いろいろな場面でプロジェクトの立上げや運営に係った経験があり、プロジェクトの成功確率は決して高いものではないことを身をもって感じているはずです。では、なぜプロジェクトがうまく行かないのか、プロジェクト・マネジャーやプロジェクトメンバーの知識や経験が不十分でプロジェクトが適切に管理できず失敗したのでしょうか。

 それとも、プロジェクトの目標がそもそも曖昧であった、期待されていたコストやスケジュールが現実的ではなかったなど、実はその原因の多くが、現場のプロジェクト・マネジャー自身がコントロールできるものではなく、もう少し上のマネジメント層にその原因が帰属していたのではないでしょうか。

 例えば、いまから紹介する事象にもしあてはまるなら、ポートフォリオマネジメントを活用することで、何かご利益(ごりやく)があるかもしれません。

 

・毒まんじゅう

・鶴の一声

・止まらないプロジェクト

・先送り予算

・予算一律カット

 

 「毒まんじゅう」は、受託型の組織で働かれている方々にとって共感を得易い例だと思いますが、過去のしがらみや短期的な目標を達成するために、経験上採算割れが明らかな案件なのに受託してしまい、コストは膨れ上がるは、スケジュールは遅れるは、社内はマネジメント層も含めてバタバタの大騒ぎ、そして毒まんじゅうを食べたことで、戦略的に重要だと言っていた他の案件に人が回せず、組織の体質はいつまでも変わりません。

 「鶴の一声」は、組織に影響力がある人間が、思いつきでプロジェクトを立ち上げることで、いわゆる「声の大きさ」でプロジェクトが選択されると言うものです。この種のプロジェクトは短期的な成果は得られますが、組織全体を俯瞰する視点が往々にして足りないため、組織全体でバランスが取れていない結果になり、対処療法的な対応になりがちです。また、プロジェクトの使命がそもそも不明確なため、担当者にプロジェクトの目標を確認すると「誰々さんからプロジェクトを行うように言われた」との答えが返ってきて、その人物の影響度が大きいほど、内心とは裏腹に表立ってプロジェクト立上げに反対する人はおらず、次々とプロジェクトが立ち上がります。こんなひどいプロジェクトを立上げたのは誰かと思ったら、やっぱりあの人ですかということです。

 「止まらないプロジェクト」は、戦略を実行するためプロジェクトを立ち上げました、しばらく経つとトップマネジメント交代や不景気などの影響でその戦略が変わってしまいました、しかしながら人や予算をやっとのことで確保して動き始めたプロジェクトは、下手に中止などと言い出すと責任問題に発展する可能性もあり、誰も言い出さず、誰からも指摘されず、予算消化実績をベースに次の予算期も人や予算はそのままで、明確な節目を迎えない中、動き始めたプロジェクトは大きな見直しを受けず動き続けます。これはプロジェクトがもはや本来の戦略的な目標を失っているのに「プロジェクトを行うことが目的」になってしまっている例です。そして、有効性を失った戦略を支援するために人や予算が費やされます。

 「先送り」は、戦略を実行するために必要だと言われている取組みを、正式な申請手続きを経て承認を得ようとすると、今プロジェクトを実施しないとどんな影響(売上や利益が減るのか)があるのか、プロジェクト実施による影響範囲が大きいがリスクは十分に検討したのかなど指摘を受け、たらい回しにされたあげく人も予算も承認されない状況のことです。ただ、最終的にマネジメント層を含めた審議の場でその案件が議論されるのは良いほうで、事務局の事前審査段階で振り落とされ、審議の俎上にも上がらないことも多いようです。また、上述の3例などで人や予算が浪費され、本来戦略上実施すべきプロジェクトに人や予算を回せないことが、プロジェクト先送りの本質的な原因かもしれません。

 「予算一律カット」は、景気が下降局面になった際に、組織はコスト削減に取組むのですが、その際に選択と集中と言いながら、戦略的に重要だと思われる案件と、そうで無いものとの間でメリハリをつけた判断をマネジメント層が行わず、削減内容を各部門やプロジェクトに任せる、いわゆる予算一律10%削減のような、経営資源の配布判断を現場に丸投げすることです。

 

 実はこれらの課題を解く鍵は「戦略整合性(Strategic Alignment)」と言う言葉に集約されます。

 

 次に視点を少し変えて優先順位付けの話をします。組織の活動のなかではいろいろと優先順位をつけて物事を決めていくのですが、みなさんが所属している組織ではどの様に順位を決めているのでしょうか。

 表面的な建前やほとんど形骸化している手続きもあるが、やはり勘と経験ですかね、つまり「あ~、これは絶対外せない」、「あ~、これはどうせ出来やしないからやめておこう」という感じで、長年培った感性を基に、感覚で決めているのではないでしょうか。下手にリスク分析などして相手に弱みを見せては前に進まなくなるので、十分に根回しした上で、一気呵成に合意形成して行く。

 それとも、体系的な方法論に裏付けられた段階的かつ網羅的な手順に沿って、環境分析、投資対効果分析、リスク分析などを行い、可能な限り定量的判断材料を準備して上で、適切に説明責任を果たせるように、事前に定義された基準と各種分析で得られた材料を照らし合わせて、所定の意思決定機関において決定分析の方法論を用いて合意形成して行くなのか。

 米国の先進的な組織では後者に近く、可能な限り定量的なデータを判断材料として揃え、その情報を基にマネジメント層が戦略との整合性を考慮して優先順位付けの判断を下すという話を聞きますが、日本の一般的な組織であるとか、みなさんの会社はどうでしょうか。おそらく前者に近く、優先順位付けの判断は勘と経験によるというのが多いのではないでしょうか。

 

 上述した5つの事象の解決や適切な優先順位付けには「そのプロジェクトは戦略と整合していますか?」と言う問い掛けが必要です。もう少し噛み砕いて申し上げると、言っていること(戦略)とやっていること(プロジェクト)が合っていますかと言うことです。ポートフォリオマネジメントの役割は戦略と活動を結び付ることであり、ポートフォリオマネジメントを活用することで「戦略整合性」に基づきプロジェクトの「やる・やらない」の判断が行え、みなさんが遭遇している課題が解決でき、組織が掲げる本来の目標や戦略を達成できると言う『ご利益(ごりやく)』があるのです。