・変わらない請負の構図
・管理会社の社会的責任
・管理組合、そして所有者の自己防衛策
現場監督のつぶやき
自宅マンションは3年前に修繕工事を実施した。理事会が選定し直発注した業者は、施工中にタイル剥がれ修復の工法を変えたからと70万円ほど工費を下げてくれた。「実直な業者」の印象である。その前の大規模修繕も相見積もりの結果、この業者が選定されており、通算二勝。合わせて二十年あまり自宅マンションを守ってくれている。アフターにおいてもトラブルを起こしていない。自主管理マンションの理事として専門業者の実力や対応力に高い関心を持っているが、修繕工事に関してはこの業者と現場監督を高く評価している。
その現場監督のN氏が訪ねてきてくれた。先の工事完了の際には共に足場を巡った。日焼けと深く刻まれた皺、丈夫そうな体躯が変わらず信頼感を醸し出している。一昨日の大雨の時にパルピットから雨水があふれ、その点検のための来訪だった。パルピットを這う横引き部分が、大量に流れ込んだ雨水の重量で外れ、上階からの雨水が一気に流れ込み水があふれたとのことで、当時の修繕工事に瑕疵は無いとの説明だった。
点検来訪に謝意を伝えるとともに、大規模修繕を急ぐ別物件の施工対応可能性を尋ねた。
わたし:「修繕工事待ったなしの物件があるのですが、この秋、施工できる余裕ないですかね?」
N氏:「人手が足りない状況なんですよ。病院とか介護施設とか大きな工事を頂いていて。一方でマンションの大規模修繕は塗装屋さんとかの新規参入もあって最近はあまりやってないんです」
続けてN氏:「何よりもマンション管理会社に仕切られるのが嫌なんです。相見積もりだって出来レースで、価格調整はさせられるし、選定されてもキックバックを要求されたり。10%取られたら利益出ませんよ」「そもそもマンション管理会社がなぜ工事に関わるのか、管理だけやるべきですよね」
と同意を求められた。わたしの持論どおりの話の展開に少々驚くも、憤懣やるかたなしの語り口に内心共感しきりだった。一方で信頼を置く業者がマンション修繕から距離を置く状況に無念でもあった。
国交省はこのコンサル方式に警鐘をならしている。キックバックによる不正が常態化しているからだ。
・国交省注意喚起「設計コンサルタント業の不正」
https://www.mlit.go.jp/common/001230147.pdf
平成29年の発信だが状況は変わっていないようである。他にも元請の丸投げ・中抜きを規制されている。
・元請への制限:
https://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo13_hh_000453.html
上記の状況から方式視点でまとめているのが以下のサイトだ。
・見直されるべき責任施工方式
管理会社に期待したいこと
そもそもマンション管理会社は「サービス業」である。にもかかわらず、突然、何の前置きもなく「建設業者」となって修繕工事の元請や監理の提案をしてくる。前述の元請業規制はクリアしていることだろう。しかし彼らは「サービス業」としてマンション財政にも関わっている。住人の財布の中身を把握して、一方ではその財源の主な使途である修繕に「建設業者」として提案をしてくる構図だ。容易に捉えられる売上機会であることは理解できるが、利益相反視点で危うい。グレーゾーンに感じるのはわたしだけでないだろう。事実、同業で元請をしない企業があるのだから(後述)。
さらに提案を聞けば、修繕について不明な理事達の足元を見て「品質リスク」を煽る。「施工業者任せはリスクがある」、よって元請や監理が必須との弁である。理事達にとってコスト対効果の合理的判断が必要な場面であるが、その判断材料が提供されることはない。品質を人質に「支出リスク」がおざなりにされる局面である。理事達が必要なのは判断に必要な情報であり、物件管理を委託しているパートナーに期待したいのはここであろう。
そして先述の現場監督のボヤキにある業者選定仕切りとキックバックの業界構造だ。マンション住人はこうしたいくつもの「支出リスク」、「住」という生活基盤に寄生しようとする業、に懸念を持つべきだ。
この懸念について素晴らしく実践的な分析記事がある。管理会社を修繕工事の元請をする・しない、で一覧にしたのである。管理会社が売上重視姿勢か住人に寄り添う姿勢かの判別に一つの指標となりそうだ。
・元請けをする管理会社、元請けしない管理会社、どちらが良いの?
https://manshion.runkodaira.com/daikibosyuzen-managementcompany2/
表中のわたしが関わったことのある管理会社を確認すると、当方の主観的な評価とほぼ合致している。こうした管理会社選定の判断指標がもっと重視されるべきだと思う。
経営に関わる身として一言。なぜ管理会社の経営層は本業であるサービスミッションをその社会的責任において再定義できないのか。親会社であるデベロッパーからオートマティックに落ちてくる物件をストックに、そのアフタービジネスを線形に描くノンインテリジェントな天下り経営をイメージしてしまう。住人にとって共生パートナーであるはずの管理会社から寄生の匂いがするのなら、その原因はこの経営姿勢、ミッションにあると危惧する。マンション管理本来の「サービス業」として伸びしろはいくらでもあると思う。にわか建設業になる前に、サービス業としてお客に寄り添ってほしいものだ。そもそも体を張って現場に立つ施工業者のやる気をそぐような介在ビジネスを業にすべきではない。
理事会が基底に据えるべき活動目的
そもそも戸建てに比べてマンションは維持費が大きい。先述の「支出リスク」も含む複数のリスクが長期修繕計画に織り込まれ、今日支払う修繕費が算出されている構造が一因だ。修繕工事の検討に割く時間もなく、管理会社に丸投げしたい理事達の状況は理解できる。しかしながら自分の家だと思えば、その維持について最低の知識武装は必要ではないか。以下の項目は住人が直接仕切り、さらにはその結果を長期計画に反映することで財政収支を自分たちの手のひらに載せることだ。
1.建物診断:構造的欠陥の有無確認。通常は経年劣化が大半の改修理由のはず
2.施工指針・方式検討:責任施工方式(修繕業者に直発注)か、設計監理方式(元請や施工監理業を修繕工事業者を監視役で入れる)の選択。経年劣化なら工法は修繕は塗る・貼る、だけだ。元請が必要なのか、直発注でも十分ではないか、を検討しよう。監理が必要と考えるならマンション財政にも施工業者にも中立な設計事務所などを検討しよう
3.長期修繕計画への反映:将来2回分の大規模修繕工事費用に結果を反映し、収支を検証しよう
いくら管理会社やゼネコンに元請や監理を任せても、品質は下請けや孫請け、さらに現場を担う職人のスキルやモラルに依存してしまう。壁や屋根に登る現場作業員の施工段階でテキトーにやられたらトラブルの種はそこに根を下ろす。いくら監理者をいれて現場監督を監視しても職人の一挙手一投足に付きっきりでチェックすることは不可能で、施工後の目視チェックに頼るしかない。だから大手ゼネコン元請施工でもトラブルは尽きないのだ。経年劣化であれば塗る・貼るだけだ。責任施工(修繕業者へ直発注)で余計な出費を抑え、自ら現場監督と施工状態を確認をすべきだ。そうすれば効果不明な「支出リスク」そのものから距離を置ける。
生涯付きまとうマンションコストは生命保険並みの大物支出だ。公益財団法人生命保険文化センターが3年に一度実施する「生命保険に関する全国実態調査」の2021年度の調査結果によれば、生命保険で払い込む保険料は全世帯平均で年間37万1000円、月換算で3万円だ。購入したマンションの維持費(管理費・修繕積立)は、「人生の大きな買い物」と言われている生命保険料と同様に「大きな買い物」なのである。さらに生命保険よりキツイのは払い込み完了年齢がなく、一生毎月、死んだ後も所有権移転まで支払いが必要なことだ。
このようにマンションという「大きな買い物」はさらにその維持という人生の「大きな買い物」を伴う。今日支払う維持費の算出は30年先までの収支によって決まる。若くしてマンションを所有し人生の夏を過ごす、が、皆全員がマンションとともにやがて高齢化し、年金生活者となり秋そして冬へと否応なくそのステージを変えていく。寄生しようとする業を避ける知識の有無が、マンションの長期収支を左右し、そしてそれは所有者のライフプランをも左右する。リスクの言に煽られることなく、マンション保険も考慮に入れた財政バランスを住人の健全な論点とすべきだ。是非明るく楽しく整合してほしい。
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