・築40年。腐食した排水設備
・恐るべき総会議案となった管理会社提案。否決から管理会社変更、そして組合主導の改修企画へ
・更生工事の実体
築40年。腐食した鋳鉄製排水設備
竣工1983年の某マンション。当時は最新鋭部材を使用した排水設備はあちこち腐食し、開口している住戸もあった。排水管自体は引き続き使用可能な状態ではあるが、鋳物製集合接手は腐食が進行している。このままでは漏水を免れず、衛生面も含め極めて深刻な事態に陥る。マンションの躯体寿命は100年でも配管系はずっと短命だ。この改修を巡って組合は揉めにもめた。この時とばかりに売り上げを上げようとする管理会社と無知な理事会は3億円の改修案を提示、説明会を経て総会議案化まで進めてしまったのだ。
住人を手玉に取るのは簡単だ。よくある意思決定の流れ(再掲)
管理会社にとって住人は羊の群れだ。情報の非対称性とか難しい事をいうまでも無く、建物設備保全、修繕委託方法、契約管理、など何も知識がなく、かつ、輪番で仕方なく一年の理事役をつつがなく過ごそうとする理事会では、管理会社の提案をそのまま議案にしてしまう。議案になれば有名無実の総会において可決されたも同然だ。
まず管理会社の第一手は、管理会社を元請にする修繕企画議案を提出する。他の選択肢ない議案だし、住人もお任せできるから、と素通りで可決。この時点でもう終わりだ。あとは、見積仕様とその目標工費、元請の設計費や管理費、会社としての一般管理費、などがしこたま盛り込まれた総費用が提示され、出来レースの相見積もりを経て、工事予算議案が出来あがる。あとは総会審議だが、相見積もりがしっかり仕込まれてるから「市場原理を働かせた結果」と突っ込みどころなく可決。
要約すると以下の4ステップだ;
1.管理会社による建物診断@理事会
2.管理会社を元請にする修繕企画議案@総会#1
3.見積仕様と目標額提示@理事会
4.見積結果と予算審議議案@総会#2
総会議案否決~有志会の設立~管理会社変更と更生工事企画
総会は操られた理事長による採決強行と反対者による議案取下げの攻防の場となった。私を含めた5~6人の識者によって無事取下げとなり事なきを得た。150戸の大型マンションとはいえ、3億円の資金など到底工面できない。戸当たり200万円の工事は大幅な修繕積立金値上げに直結しただろう。
すでに他物件で更生工事を完工していた当方にとって、本件の解決策自体は容易であったが、課題となるのは組合の合意形成と感じていた。が、幸いにも反対した識者に組合の重鎮がいて、有志会を設立し、当方にも参加を促してくれたのだ。
有志会では、排水管改修企画と管理会社変更が検討され、理事会との連携を構築した後に、両検討項目ともに総会議案化・可決となった。工事の戸当たり負担は50万円、修繕積立金で賄える規模に落ち着いた。
更生工事の実体
排水管改修には二つの選択肢がある。取り換える更新か研磨・コーティングする更生か、だ。生活負担を考慮すれば更新工事は不可能と言える。同じ排水管を共用している住戸は1週間水が流せないからだ。更生工事であれば排水規制は一日で済む。費用面と生活負担面から更生工事を選択した。それでも150戸を施工するために準備期間含めて4か月を要した。共用住戸が全戸同時に規制に協力する準備は管理面でのかなりな負担であったが、無事に全戸協力、完工となった。
写真は腐食した集合接手を外して交換した部分である。排水管内部の更生とともに部材の更新も伴う難工事であった。これにより更生部分保証10年、性能寿命で20年、さらに再施工も可能とのことで、40年くらいの延命に目途が立った次第である。
・排水管改修 集合接手部分ーBefore

・排水管改修 集合接手部分ーAfter

組合員による善意のプロ理事育成
マンション寿命延命策としての排水管改修事例を紹介したが、簡単に書き連ねた経緯にはマンションという住システムを取り巻く様々な課題を包含している。
・管理会社の行動原理~ 業界モラルとビジネスモデルに欠陥
・無知な理事会~ 許容してしまう組合制度・体制とその顛末による不適切保全
・組合の意思疎通~「住資産」運命共同体であるも意思疎通困難
保全の関わる業界構造と個の小集団にすぎない組合の経済合理性から、「組合員による善意のプロ理事」しか解決策が見当たらない。
#マンション #元請 #大規模修繕 #談合 #委託
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